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作品紹介 〜絵本『ドームがたり』〜

『ドームがたり(未来への記憶)』

作 アーサービナード 絵 スズキコージ

ぼくのうしろに、路面電車がとまるところがあって、ホームに「原爆ドーム前」って、かいてある。
なにかズレているなぁと気になるんだ。
だってぼくから見ると、あれは「前」じゃなくて「うしろ」。
なんで「原爆ドームうしろ」といわないんだろう?
「前」には、川がながれている。100年前も……いまも。
ぼくはもう100歳をこえたんだ。
うまれたとき、ぼくの頭はこんなスカスカじゃなかった。名前も「原爆ドーム」じゃなくて……

アーサービナードさんとの出会いは、私が高校生の時、学校の平和講演会にいらした時だった。「日本人はなぜ“目玉”焼きというのか」という話から始まり、日本に来て驚いたことや経験したことが軽快に語られ、会場は終始笑いに包まれていた。荘重な語りを受け止める心持ちでいた私にとってそれは意外な展開で、だからこそ、最後にアーサービナードさんご本人の朗読してくださった『ドームがたり』と、照明の落とされた講堂に映し出されたスズキコージさんの絵の鮮やかな色彩は、私の記憶に刻印されるものとなった。

当時の教室の私の座席が、ちょうど本棚の近くだったのを覚えている。その日の放課後、私は本棚から『ドームがたり』を抜き取った。一緒に帰る友人も待たせていて、周りにはクラスメイトもたくさんいる中で、先ほどの講演で紹介された本に興味を持っていることを表すことになるのはなんだか「優等生」くさく、恥ずかしく、それでもページをめくったのは、やはりあの一冊の絵本がそうさせたのだと思う。

私が初めてドームを目にしたのは学校の旅行で広島を訪れた日、路面電車を降りて資料館に向かう途中で、同級生たちと列をなして歩いていた時だった。隣の友人となんの話をしていたか、照りつける日差しに耐えかねて目を伏せて歩いていたか、あるいは前を歩く生徒から遅れを取らないようにと気にかけていたかもしれない。とにかくその出会いに予告はなく、あまりにも突然で、当たり前のように佇むその立体のそれでも異様な様相に、私は目を向けられなかった。

広島を去る日にもう一度ドームを見に行った。ドームの上に広がる青空がとても印象的で、コントラストが美しかった。けれど私はそれを、美しいと表現していいのかもわからなかった。東京に帰った私の中で、ドームはまた資料集の中の平たい写真に戻り、あの空の青さは薄れていった。

(実際にその時に撮った写真)

ドームとの出会い、そしてアーサービナードさんとの出会いから数年後、私はこの旅に関わるようになり、広島を何度か訪れた。その度、私はドームと語り合っている。広島に着いた日には元安川の対岸から(「前」側から)ドームを眺め、帰る日には「また来るね」とつぶやく。ドームは、私を広島につなぎとめ、自分を見つめなおさせてくれる。

しばらくして広島のまちに、人がたくさんきた。いつからかぼくを「原爆ドーム」とよびはじめた。
ぼくのまわりに建物をどんどんたてて、みんな「戦争がおわってよかった」といったりする。けど
どうも気になるんだ。ほんとうにおわったのか?
とおくで、つぎの原爆、そのつぎの原爆が見える。

『ドームがたり』でドームが語るのは、そこに落とされた原爆の様子だけではない。その中で私たち人間が何を語って来たのか。ドームを前にして、今の私たちは何を考えるべきなのか。

ドームを眺めながら、希望ある未来と、大好きな人々と、広い世界に思いをはせるその時間を、私は大切にしたい。その思いが、私を動かしている。

空のたくさんの星とぼくらの星と
ちかいように見えてとてもとおい。
夜までずっといっしょにいてくれて、ありがとう。
ぼくは生き物がそばにいるとうれしい。

引用:『未来への記憶 ドームがたり』

作 アーサービナード 絵 スズキコージ

玉川大学出版部 2018.3.20

ちろる

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