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作品紹介 〜『空白の天気図 核と災害 1945・8・6/9・17』〜

柳田邦男『空白の天気図 核と災害 1945・8・6/9・17』

新潮社(1975)、文春文庫(2011)

今年の夏も、本当に暑い夏になりました。起きて、スマホの天気予報の今日の最高気温を見て「うへぇ」と思い、「夕方頃、雨になるのかー、傘がいるなー」と独り言を言う…それはわたしの日常です。スマホが手元に来る前も、インターネットで新聞でテレビでわたしたちは何気なく天気予報を見てきました。地震も台風も大雨も多いこの列島で、気象や自然現象に関する警報は、わたしたちの命にとって大切なものです。

けれども、その天気予報が、災害時の警報が知らされなくなった時代がありました。

1941年12月8日、日本軍が真珠湾を攻撃。

この時から、気象情報は軍事機密になりました。結果、東南海地震(1944年12月、M7.9、死者・行方不明者1223人)と三河地震(1945年1月、M6.8、死者・行方不明者3432人)が発生した時も、多くの方が犠牲になりました。また農業・漁業などの天気に左右される業種が大きな打撃を受けています。

1945年8月22日夕刻に東京ではラジオでの天気予報が再開され、次の日の新聞に天気予報が載りました。戦争は敗けて終わり、生活が戻ってきたのです。けれども、ボロボロになってしまった状況の中で通信網は遮断されており、ほとんどの人々がその情報に接することがありませんでした。

そんな中、1945年9月17日、枕崎台風が起きます。鹿児島で始まったこの台風の死者行方不明者は3,856人、そのうち2,012人が広島県の人々でした。

「どうしてこんなに多くの人が広島で亡くなったのか。」

その疑問にノンフィクションである本書『空白の天気図』は取り組んでいます。枕崎測候所で観測されたこの台風の大きさや予想される被害を「中央気象台に打電する手段は依然として絶たれたまま」(p16)でした。そして2度目の惨劇は起きてしまいます。

原子爆弾が投下された時、そして台風が起こった時の広島の様子、その刻銘な記録、気象台の人々の動きについては、是非、本書をお読みいただきたいと思います。

そう、原子爆弾が投下された後も、枕崎台風でさらなる被害がでた時も、広島地方気象台(現・江波山気象館。被ばく建物として現存。訪問できます。)は観測を続け、記録を残し続けました。誰にも見られなくても、1日も欠かさず。そこに当時の軍事教育の成果としての「国民性」のようなものを見ることもできます。その影響がないとは言いません。でも、わたしは、当時の中央気象台長、岡田武松さんが「観測精神は、軍人精神とは違う。」と明言する、「観測精神」がそこにあったのだと思いました。

「観測精神は、軍人精神とは違う。
観測精神とはあくまでも科学者の精神である。自然現象は2度と繰り返されない。観測とは自然現象を正確に記録することである。同じことが2度と起こらない自然現象を欠測してはいけない。それではデータの価値が激減するからである。まして記録をごまかしたり、好い加減な記録をとったりすることは、科学者として失格である。
気象人は単なる技術屋ではない。地球物理学者としての自負心と責任を持たなければならない。観測とは、強制されてやるものではなく、自分の全人格と全知識を込めて当たるものなのである。」(p128)

どんな状況にあったとしてもその場所で自分のできることを誠実に、力の限り尽くす。戦時下のそして戦争直後の、わたしがどんなに想像しても想像し得ない時代状況の中で、なお、そのように生きられた人たちがいたことに、驚きます。

その結果、広島地方気象台の人々は、「黒い雨」の存在とその被害の実相に気づきます。それは、放射能被害に関する様々な補償をしていく上で、被害者である人々にとって有効な証拠となりました。

そして。文春文庫として新装されたこの本は、「2011年3月11日」以降の東京電力福島第一原子力発電所の事故と津波の事柄にも言及しています。

「“原爆と台風”と“地震・津波と原発“という2つの災厄の態様は違うように見えるけれど、そこから読み取るべき問題の本質に変わりはない。読み取るべき共通の本質とは、人間が手をつけた核の危険性に自然界の脅威が重なることによって、人類史上前例のない巨大災害を引き起こした私たちの、便利さと効率優先のライフスタイルと価値観、経済と国策のあり方、ひいては文明のあり方が問われているということである。」(p451)

この言葉は日本YWCAが希求する平和、そして「『核』否定の思想」に通じるものがあると思いました。

わたしも、今日するべきことをしていきます。

それは、またしてもあの道を行こうとしているこの国の政府に抗議することであり、「国策のあり方」「文明のあり方」をわたし自身にも社会にも問い続けていくことであり、平和を希求し続けることであり、公正な社会を願って共に歩み続けること。

愚直に、誠実に、横の人々と手をつなぎつつ、それを続けていきたいと思います。

*()のページ数は全て、文春文庫

【追記】

ジェンダーという視点で読むと、本書には課題があります。名前を記されて覚えられているのは、「男性」のみで女性はみな「女性職員」という言葉でまとめられています。1945年当時のジェンダー、また著者のジェンダー観が影響していると思います。

この当時の女性の労働状況については、

佐藤千登勢『軍需産業と女性労働』2003年、彩流社

西口友紀恵編『戦争と女性』1981年、白石書店

などに参考になると思われる記録がありますので、興味のある方は見てみてください。

臼井一美

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